不思議なペンダント
ジリジリジリジリジリジリジリジリ
目覚ましが鳴り響きます。私は起き上がり、目覚ましを止めました。朝7時、今日も1日が始まりました。
起き上がり、階段を降りてリビングに向かいます。お姉ちゃんが、もう出かけようとしていました。
「おはよう、カナ」
「おはよう、お姉ちゃん」
挨拶すると、お姉ちゃんは小走りで玄関に向かいます。
大きなお胸をプルンプルンと揺らして、走っていました。
私はお姉ちゃんの大きなお胸を見た後に自分のを見て、悲しい気持ちになりました。
いつか、お姉ちゃんくらい大きくなれるといいなと思いました。
私は中学1年生ですが、身長が130cmしかありません。学年でダントツで小さいです。
一方でお姉ちゃんは大学生で、身長は180cmもあります。お胸も大きくて、かっこいいです。
読者モデルをやったり、ミスコンで優勝したり、自慢のお姉ちゃんです。
私も将来はお姉ちゃんみたいになれるといいなと思っています。
しかし・・・・・・私にはいつ成長期が来るのでしょうか。
中学1年生の時、お姉ちゃんは160cmあったようです。かなりの長身さんです。
胸もDカップあったみたいです。それに対して私は・・・・・・ぺたんこです。
背を伸ばしたい! いっそのこと、お姉ちゃんよりも大きくなりたい!
私はそう願いました。早寝早起きをして運動してご飯をいっぱい食べました。
しかし、一向に成長期は来ませんでした。周りの子はドンドン背が伸びるのに、どうして私には・・・・・・
ある日、私は近所に新しくできた薬局に向かいました。とても品揃えが豊富でした。
今日から夏休みです。夏休みといえば成長期です。
私はこの機会に、思いきり身長を伸ばそうと思い、サプリメントのコーナーに向かいました。
お小遣いでカルシウム剤を買いました。他にも、身長が伸びると書いてあるものは何でも買いました。
レジに持っていくと、レジのおじいさんが私の買ったものを見て笑って、恥ずかしくなりました。
「お嬢さんは、身長を伸ばしたいのかい?」
おじいさんは、私にそう尋ねました。私は黙ったまま、こくりと頷きました。
「そうかい、じゃあいいものをあげるよ」
おじいさんはそう言いながら、机の下からキレイな水晶のペンダントを取り出しました。
「これはね、願いの叶うペンダントだよ。一緒に入れておくね。あ、お金はいいよ」
願いの叶うペンダント、そんなものが本当にあるのでしょうか? 私は疑いの目でそれを見ました。
しかし水晶はとてもキレイで、私は目を奪われてしまいました。
おじいさんの言っていたことが本当かは分かりません。
ですが、素敵なペンダントをもらって、私は嬉しくなりました。
その日の夜、私は買ったカルシウム剤などを寝る前に飲みました。
その時、おじいさんからもらったペンダントが目につきました。
蛍光灯の光が当たって、キラキラと輝いていました。
その輝きを見ていたら、なんとなく、おじいさんの言っていたことを信じてみようと思いました。
私はペンダントを首にかけて、ベッドに入りました。
そしてペンダントに、お願いしました。
私の身長を伸ばしてください。できれば、お姉ちゃんよりも大きくしてください。
そんなお祈りをしていると、私はいつの間にか、夢の世界に入っていきました。
ジリジリジリ、私はめざまし時計を止めました。
目覚まし時計が鳴る少し前に目を覚まし、ベルが鳴ると同時にベルを止めました。
いつもよりも気持ちの良い目覚めでした。私はベッドから降りました。
立ち上がると、なんとなく、目線が高くなったような気がしました。
私は、壁に貼られた簡易身長計で身長を測りました。133cm、3cmも伸びていました!
1週間くらい前に測った時、私は130cmしかありませんでした。
朝だからかもしれません。でも朝でも1.5cmくらいしか伸びないことを私は知っています。
ともかく、私はこの1週間で何センチも伸びたんです!
私は嬉しくなって、リビングまで走って行きました。お姉ちゃんが、朝ごはんを食べていました。
「お姉ちゃん、身長伸びたよ!」
私は座っているお姉ちゃんに、そう言いました。お姉ちゃんは不思議そうな顔をして、立ち上がりました。
私の頭上で胸を揺らしながら、お姉ちゃんは私の頭を撫でました。そして、言いました。
「うん、良かったわね!」
お姉ちゃんはそれだけ言って、またご飯を食べ始めました。
伸びたと言っても、たったの3cmです。長身のお姉ちゃんにとって、その差は小さすぎるんです。
でも、私にとっては大きな3cmです。私は悔しくなって、自分の部屋に戻りました。
そしてベッドの上に飛び込み、布団に潜って静かに泣きました。
ふと、胸に硬いものが触れるのを感じました。昨日寝るときに首にかけたペンダントです。
私はそれを取り出しました。太陽の光に照らされて、昨日よりもきれいにキラキラと輝いています。
私はペンダントに祈りました。
私の身長を伸ばしてください。もっともっと、伸ばしてください。
私はお姉ちゃんに呼ばれるまで、そう祈り続けました。
私の身長は毎日伸び続けました。今朝は153cmになっていて、ようやくお姉ちゃんもそれに気が付きました。
「カナ、なんか背伸びた?」
「うん、伸びたよ!」
私は笑顔で、そう言いました。お姉ちゃんは私の前に立って、身長を比べています。
以前は頭の上にあったお姉ちゃんの胸が、今は私の目の前にありました。
私はそれを知って、嬉しくなりました。
そしてこのまま成長して、お姉ちゃんよりも大きくなろうと思いました。
そして寝る前、いつものように私はペンダントにお祈りしました。
私の身長は加速度付けてさらに伸びていき、ついに180cmになりました。
部屋で自分の身長を身長を測り、180.1cmになったことを知って、私は部屋を飛び出しました。
そして、お姉ちゃんに飛びつきました。お姉ちゃんは目を丸くして、私を見ていました。
「カナ、こんなに大きく・・・・・・」
「180.1cmだったよ。お姉ちゃんよりも大きく・・・・・・あれ?」
私は背筋を伸ばして、お姉ちゃんの前に直立します。お姉ちゃんは、私から目を逸しました。
「・・・・・・お姉ちゃんの方が、ちょっと大きい」
お姉ちゃんは少ししてから、はあとため息をつきました。
「・・・・・・ごめん、180cmは高3の時の身長なの。大学に入ってからも伸びて、今は184cmくらいあるの」
お姉ちゃんは申し訳無さそうに言いました。私は少し、がっかりしました。
でも、 この調子で行けば明日にはお姉ちゃんを抜かせるはずです。私は明日が来るのが楽しなりました。
翌朝、私はいつも通り目を覚ましました。
ベッドの上にいる時点で、昨日よりも大きくなったと感じました。
そして立ち上がると、見える景色が全く変わっていました。
身長は202cm、昨日より22cmも大きくなっていました。
私は嬉しくなって、リビングに向かいます。その途中、ドアの枠に頭をぶつけてしまいました。
お姉ちゃんは、今の私の顎くらいの身長でした。
お姉ちゃんのつむじが見えて、嬉しくなりました。
一方で、お姉ちゃんはぎょっとして、私の方を見ました。
「カナ・・・・・・大きくなったわねえ」
「えへへ、まだまだ大きくなるもん!」
私はそう言って、胸を張りました。
その時に気が付きましたが、背が伸びたことでスタイルも良くなったみたいです。
ペタンコだった胸が、少しずつ膨らみ始めました。
私の最初の願いは、『お姉ちゃんよりも大きくなること』でした。
その願いは叶いました。私はお姉ちゃんよりも、頭1つ分大きくなることができたのです。
でも、私はまだまだ大きくなりたいです。
町の誰よりも、外国人よりも、もっと大きくなりたいです。
いや、この不思議なペンダントの力なら、家よりも大きくなれるかもしれません。
大きくなりたい、何よりも、大きくなりたい。私はそう、ペンダントに祈りました。
200cmを超えると色々不自由になってきます。
ドア枠をはじめ、色々なものにぶつかってしまいます。
でも、大きいからこそ役に立てることも、楽しめることもあります。
それに、毎朝グングンと大きくなっていくのは爽快です。
私はもっともっと、それこそ地球よりも、大きくなりたいです。
翌朝、私の足はベッドの外にはみ出ていました。
また大きくなれたことを喜びながら、私は立ち上がりました。
ググッと目線が上がっていき、つむじが危険信号を発しました。
ゆっくりと膝を伸ばし、頭が天井につく頃、私は中腰で立っていました。
私はとうとう、天井よりも大きくなってしまいました。
私はハイハイでドアをくぐり、階段を下り、リビングに行きます。
そしてお姉ちゃんが向こうを向いている間に、再び中腰になって、天井に頭を付けて、言います。
「お姉ちゃん、おはよう」
「おはよ・・・・・・キャー!」
お姉ちゃんは悲鳴を上げて、尻もちをついてしまいました。
私もびっくりしてしまい、天井がみしりと音を立てました。
「か、カナ、何センチあるの?」
私は満面の笑みでもって、答えました。ずっと、言ってみたかったセリフです。
「大きくなりすぎて、もう測れないの!」
外で身長を測ると、250cmになっていました。でも、これは最初から知っていた数字です。
お姉ちゃんが測る準備をしている間に、ペンダントに聞いたら教えてくれたんです。
250cmという身長で、私は近所をお散歩しました。会う人はみんな、びっくりします。
車はびっくりするくらい小さくて、腰くらいの高さしかありません。
少し前まで、私はお姉ちゃんの胸よりも小さかったですが、今では逆です。
私の胸に届く人の方が少ないです。お姉ちゃんが、辛うじて届くくらいです。
私はもしかしたら、世界一かもしれません。でも、まだまだ大きくなりたいと思います。
家よりも大きくなってしまったので、私は隣の公園で夜を過ごすことになりました。
夏でも、夜は少し寒いです。私は小さな毛布を抱きしめて、ペンダントに祈りました。
まだまだ、成長が続きますように。
翌朝、寒さでいつもより少し早く目を覚ましました。
体を起こすと、妙な感じがしました。昨日の自分と、目線が同じなんです。
ついに成長期も終わりかと思い、立ち上がりました。
するとグングンと目線が高くなり、2階を窓から覗けるくらい高くなりました。
私は頭を整理しました。つまり、地面に座った状態で、昨日と同じくらいの身長だったということです。
今の自分の身長を、ペンダントに尋ねました。すると、5mという答えが返ってきました。
5mからの景色は、昨日とは全く違います。私は額に手を当てて、遠くを見る格好をしました。
よくアニメとかで、巨大化したキャラクターがやるような格好です。
でも・・・・・・なんだか、物足りないと感じました。
5mと言っても、家の方がずっと大きいです。アニメとかだと、巨大化といったら家よりもずっと大きくなっています。
私はペンダントを握りしめて、もっともっと、家よりもずっと大きくなりたいと願いました。
「カナー!」
ふと、右の方からお姉ちゃんの声が聞こえました。
お姉ちゃんは窓を開けて手でメガホンを作って、叫んでいます。
私は地面に立って、2階のお姉ちゃんに向かって手を振りました。なんだか、不思議な感じです。
5mというのはとても大きく、足元に気をつけながら道路を歩きます。
また、頭にも気をつけます。油断していると、電線に引っかかってしまいます。
そうやってお散歩をしていると、保育園の子たちが歩いて来ました。
子どもたちは私を見て、「でっかーい!」と叫びました。私は子どもたちに優しく微笑みました。
子どもたちは珍しそうに、私に近づいてきます。
膝よりも小さいと言って、私の脚を触ってきてくすぐったいです。
しばらく遊んでから、私は子どもたちと別れます。そして満足して、家に戻りました。
公園も直ぐに小さくなってしまいそうなので、私は少し離れた所にある空き地で寝ることにしました。
空き地の管理者はとても親切な人で、私が貸してほしいというと、直ぐに貸してくれました。
空き地はとても広く、5mある私にとってもかなり広いです。広すぎて、少しさびしくなりました。
私はペンダントを握りしめて、寂しい気持ちを紛らわします。
そして、今日1日の出来事を振り返りました。
最初に思い浮かんだのは、もちろん保育園の子たちと遊んだことです。
膝くらいしかない子と一緒に遊ぶのは少し怖かったですが、とても楽しかったです。
そんなことを思い出した後、ふと、今朝のことを思い出しました。
アニメみたいに遠くを見てみようと思ったものの、5mというのは思ったよりも小さいです。
それを思い出してから、私は再びペンダントを握りしめました。そして、お願いしました。
もっともっと、大きくしてください。
翌朝、私は寝ぼけたまま寝返りをうちます。すると、お腹の辺りに箱のようなものが当たりました。
私は目を開き、その箱を見ました。灰色の、金属でできた、見覚えのある箱でした。
私ははっとしました。それは、災害用品を備える倉庫にそっくりだったんです。
寝ぼけた頭が一気に冴えました。そして、体を起こして辺りを見渡します。
ほとんどの家は、私よりもずっと小さくなっていました。
私よりも大きいマンションはいくつかありますが、立ち上がるとそれも私より小さくなりました。
私は昨日と同じように、額に手を添えて、遠くを見ました。
視界を遮る障害物がないので、ずっと遠くまで見ることができました。
しかし遠くには、私よりも大きそうなビルや山が見えます。
まだまだ、私は小さいんだなと思いました。
私は歩いて家に向かいました。私が家に近づくと、お姉ちゃんが窓から体を出しました。
「カナー! ここよー!」
お姉ちゃんが手を大きく振っています。今の私から見れば、家はまるでドールハウスです。
私は地面に正座して、お姉ちゃんに向かって手を差し出しました。
お姉ちゃんは窓から体を乗り出し、私の手の上にチョンと乗りました。
私の手は、多分お部屋と同じくらい広いと思います。お姉ちゃんはそこで、寝転がっています。
「お姉ちゃん居心地はどう?」
「思ったよりも良いわ! 柔らかくて」
私は立ち上がり、お姉ちゃんを手に乗せて、歩きました。
目的地は都会です。私よりも大きなビルがあるとウワサの、都会を目指します。
今の私の身長は50mです。それに対して、都会のビルは200mくらいあるようです。
街では大きいと思っていた私も。都会ではビルに埋もれてしまいました。
ビルの間を縫うように歩いていたら、時々窓ガラスの向こうから手を振ってくれます。
ビルで働いているサラリーマンの人たちです。スーツを着て、パソコンを使っています。
そういう人たちに手を振っていたら、見覚えのある男の人が見えました。
私のお父さんです! お父さんが、スーツを着てビルの中で働いています!
ビルのガラスは開かないようで、お父さんと話すことはできませんでした。
でも、偶然仕事中のお父さんと出会えたことを、なんとなく嬉しく感じました。
私の成長は、まだまだ終わりません。
50mになった翌日、私は500mになりました。
あんなに大きく感じたビルは私の腰よりも小さくなってしまいました。
私よりも大きい建物は1本だけ、あの有名な電波塔だけです。
634mあるという電波塔は私よりも頭一つ以上大きく、少し悔しくなりました。
私は無意識の内に胸のペンダントを握りしめて、もう少し大きくなりますように、と祈っていました。
私の身長がぐぐっと伸びていきました。伸びて伸びて、電波塔よりも大きくなりました。
私は嬉しくなって、もっと大きくなりました。更に伸びていき、電波塔が胸よりも低くなりました。
歩いている内に、私の体はドンドン大きくなっていきます。
電波塔よりも大きくなったと思えば、山よりも大きくなり、さらにさらに大きくなっていきます。
家やビルは石ころのように小さくなってしまいました。
しかし、日本はとても広大です。こんなに大きくなっても、見渡す限り陸地が続いています。
私はペンダントを握りしめて、祈りました。もっともっと、大きくしてくださいと。
成長はさらに加速していきました。石ころだったビルは小石になり、砂粒になり、見えなくなりました。
私は他の大陸に行こうと、海に出ました。まるで、浅い川のようです。
当然靴が濡れてしまいましたが、そんなことはあまり気にならなくなっていました。
トコトコと歩き、その間にも大きくなり、気がつけば地球を1週して、日本が小さくなっていました。
列島の幅に靴が入らないくらい、私は大きくなりました。そしてさらに成長していきます。
軽くピョンと跳ねると、地球から飛び出して宇宙空間に出てしまいました。
宇宙に酸素はないと聞いたことがありますが、不思議と息は苦しくありません。
そして、成長はさらに加速度を増して行きます。
バランスボール、ドッチボール、ソフトボール、ピンポン玉、パチンコ球。
地球がドンドン小さくなっていきます。隣の太陽も、同じように小さくなっていきます。
私は宇宙空間を泳ぎます。まるで巨大なプールです。星を手で掻いて泳ぎます。
そんなことをしている間にも、私の体はドンドン大きくなっていきます。
さっきまで手のひらサイズだった星が、あっというまにお米のように小さくなってしまいました。
自分よりも大きい星は時間を経るごとに少なくなっていきます。
私から見れば、宇宙の星々はまるで霧のようなものです。
それでも、私の体はドンドン大きくなっていきます。
宇宙の果てには何があるのか。私は難しいことは何も知りません。
しかし私は今から、自分の目でそれを知ることができるのです。
私はペンダントを握りしめました。そしていつものように祈りました。
私を何よりも大きくしてください、と。
-FIN
創作メモ
twitterでお題箱をやっていた頃にケン先生から頂いたリクエストです。かつてはボツにしてしまったのですが、この度ケン先生が公開を勧めてくださったので公開することにしました。