大きくなるまで

 廃墟の前で少年が一人ふらついている。やがて少年がもう一人、妹を連れてやってきた。
「よう実」
「由紀、遅い!」
「悪い悪い」
 謝る由紀を見てから、実は後ろの女子に目を移す。
「美樹も連れて来たの?」
「ああ、今日は危ないからって止めたんだけど、結局付いてきた。お前、俺たちの邪魔はするなよ」
 無言でこくりと彼女は頷く。実と由紀は小学6年生にして145cmとやや小柄であった。しかし由紀の妹である美樹は、小学4年生にして170cmととても背が高い。由紀はそんな妹を見上げながら日々を過ごすのだった。
「じゃあさっそく、中入ろうか。何があるんだろう」
「まあ、結局何もありませんでしたってなりそうだけどな」
「また夢のないことを」
 由紀を批判しながらも、実は小さくため息をつく。日常に刺激を求めて始めたこの廃墟探検、今まで5個の廃墟に足を踏み入れてみたが、どれも何もないただの廃墟だった。
 3人は廃墟に足を踏み入れた。実は、ここもつまらなそうだと思った。外見はぼろかったものの中は綺麗で、人が住んでいると言われても何の違和感もない。しかし広さはある。また部屋の作りも少々変わっていて、学校の教室のように、ドアの上に小さな窓がある。
 1階の部屋を一通り探索し終えて、2階に上がる。階段が屋敷の中央にあるため、階段を上がった先は左右に別れていた。
「なあ、二手に分かれて探索しないか? そっちの方が、スリルあるじゃん」
 由紀がそんな提案をする。実は少し考えてから、首を縦に振った。このまま行って終わるよりは、最後にいつもと違うことをやった方が良いだろう。実はそう思った。
「じゃあ、分かれようか。美樹は、由紀の方でいいよね」
「いいや、実と一緒だ。俺だってたまには1人で探検したいしな」
 実が美樹を見上げると、彼女は小さく頷いた。実の方も思わず会釈した。
 二手に分かれての探索が始まる。部屋のドアを開けて中を見て、また出ていく。机があれば、その中も調べる。しかしたいていは空っぽで、あったとしても瓦礫である。文房具でも入っていれば多少はその場では多少盛り上がるが、すぐに覚めてしまう。
 美樹は実について退屈そうに廃墟を歩き回っていた。実の方は時々美樹の方を気にしながらも、基本的には自分のペースで部屋を見回る。そして最後の部屋。結局つまらなかったなと思いながらも、期待を胸に実はドアを開けた。
「ここで最後だね」
 実はぼそりと、自分に向かって言う。後ろで美樹が小さく頷いた。部屋を見回り、ロッカーがあったのでその中を調べるが、これ特に何もなかった。何もないか、肩を落として実はドアノブを捻った。
 ゴトン、鈍い音と同時に、ドアノブがドアから外れた。ドアノブのあったところにはぽっかりと穴が空いて、向こうを見ることができる。元に戻そうとしてもうまくはまらないし、ドアを押してもドアは閉まらない。
 助けを呼ぼう、実は一瞬そう思ったが、直後にそれを却下する。実は今の状況に興奮していた。これこそ自分が求めていた刺激だ、そう思った。
「開かないんですか?」
 実の後ろから、美樹が心配そうに訪ねてくる。
「うん。ドアノブが外れちゃった」
「お兄ちゃん呼ばないと」
「由紀でもたぶん、どうにもできないよ。大人を呼んでドアを壊すくらいしか」首を横に振りながら実はそう、美樹を諭した。
 実はドアから離れて部屋をふらつく。美樹はそんな余裕そうな実を怪訝な表情で見ていた。これからどうしようと、不安に押されながらその場でふらふらしていた。実は楽しむ一方で、今の状況を不安に思っていたが、冷静に対処策を考える。
 部屋にあるもの、ロッカー1つのみ。ドアのすぐそばに置かれたロッカー。ドアの上には、小さな窓。実の頭の中にこんなプランが浮かぶ。美樹に頼んでロッカーの上に乗る。そして、窓を開けて外に出る。それで実は脱出できる、しかし美樹はどうするのか。美樹の長い体では、上の窓から頭をだして脱出しようとすると、そのまま頭から落ちてしまうではないか。足から抜ければ良いが、ロッカーからジャンプして窓に手をかけて、懸垂をして足を上に持ってきて足から抜ける。これはあまりにテクニカルである。
 実は考えた、そして1つの案が浮かんだ。窓を全て取り外してしまえば良いのだ。そうすれば、窓にしがみついて、なんとかしてドアの上に寝そべって、足から抜けることができる。実はこれが一番成功率が高いと思った。
「ねえ、美樹。僕をロッカーの上に乗せてくれる?」
 美樹はしばらく戸惑ってから、実を遠慮がちに肩車した。実はロッカーの上に乗り、ジャンプして窓の枠に手を引っ掛けた。美樹はそれを見て息を飲んだ。それから実は片手でつかまりながら窓を開けてそこに乗っかり、窓の外枠を叩く。朽ちた木製の窓枠がボロボロと砕け、簡単に窓が廊下に落ちていく。実は小さく笑った。そして全ての窓を落とし終えた。
「これならたぶん、美樹でも出られると思う。先に出て」
 実は再びロッカーの上に乗り、下にいる美樹に手を差し出す。実とは違い、立ったままでもロッカーの上に十分手が届く美樹。ロッカーに手を引っ掛けてジャンプしたところを、実は彼女の腕を掴んで思い切り引っ張る。彼女がロッカーの上に乗った時、実は顔中を真っ赤にしていた。
「次は、あそこまで飛んで」
 息を切らせながら実は先ほど窓を外して空虚になったドアの上部を指差す。美樹はふるふると首を振った。
「む、無理です」
「でも、それしか脱出する方法はない。大丈夫、きっとできるから!」
 したから美樹を励ます実。幹は深呼吸をしてから、ぱっと穴に向かって飛んだ。
「よし!」
 腕を引っ掛けて、ぶら下がる美樹。実はガッツポーズを決めている。
「その調子で、そこに乗っかって。横もあるから、まずはそこに足を乗せてみて」
 鉄棒の前回りの要領で上半身をそこに乗せてから、実に言われた通り、足も乗せて寝そべる。
「そして、足を向こうに出せば、脱出できる。これで最後、頑張って!」
 ゆっくりと足を向こうに出していく美樹。高いところに登った猫が降りられなくなるように、美樹は登ったときよりも緊張しながら、落ちないようにと細心の注意で体を廊下の方へと動かしていく。そしてついに、腕以外は向こうの方に運び終えた。
「さあ降りて。足を捻らないように気をつけて」
 とっ、と地面に着地。脱出成功。実は安堵すると同時に興奮していた。これこそ探検だと、目を輝かせていた。
 脱出を終えてもなお、美樹は廊下で心臓をバクバクと鳴らしていた。さっきまでの、怪我をするかもしれないという不安が大きすぎたため、終わってからも緊張が解れなかった。そんな美樹の横に、1分経たないうちに脱出する実。美樹がいなくいてもロッカーの上には登れる、美樹に肩車をしてもらったのは演出に過ぎなかった。しかしそんなことは美樹にとってはどうでもよく、自分よりも小さいのに自分よりも勇敢な実に、美樹は頬を若干紅潮させた。
「よお、何かあったか?」
 由紀がやってきて、2人に成果を尋ねる。
「いや、ロッカーしかなかった」
「しけてんなー。こっちも壊れた机くらいしかなかった。帰るか」
「うん!」
 屋敷を出て行き、実と兄妹は別れる。兄の後をつきながら、美樹は弱く動悸していた。緊張のせいではない、彼女にとっての春一番。
「大きくなりたい」
 俯きながらぼそりと呟く。彼に釣り合うには、彼と同じくらい大人にならなくてはならない。では、大人になるとは何か。とにかく、大きくなることではないかと美樹は思った。身長が170cmもあれば美樹よりも背の低い成人男性はいるが、そういう人は美樹には子どもっぽく見える。そして本当に大人らしい大人、それは男女問わず背の高い格好いい人であった。そんな人になろう、そのためにもっと大きくなろうと美樹は心に決めた。



 実と美樹の脱出劇から3年が過ぎた。小学生の美樹にとって3年という時間は比較的単調であったが、その間に第二次性徴期を迎えた実にとっては、様々なものが変化した3年だった。人並みに背も伸びて165cmになり、筋肉もついて男性的な体格になった。そして美樹も、晩熟ゆえにそういう時期はまだ迎えていなかったが、色々な変化があった。
 中学校の入学式、中学校に向かう途中の道端で、美樹は自慢の長身を見せびらかせ人々の注目を集めている。毎年10cmのペースでにょきにょきと背を伸ばして、今では200cm。成長期を控えた彼女は肉付きは乏しく女性らしいとは言い難いものの、頭身は高くすらりとした体型であった。美樹はそんな自分の長身が自慢だった。そしてこの体を実に見せたいと思っていた。
 教室に入り、小さな机に座って背筋を伸ばして読書をする。座っていてもわかる長身に周りは噂する。やがて定刻になり、入学式のために番号順になって廊下に並ぶ。その時美樹は、1人の少女に自然と目が行った。大き過ぎる身長差のため、前を見ていれば普通誰とも目が合わない。しかし彼女とは目があったのだ。その時はただ会釈をするのみだったが、美樹は複雑な心境だった。
 式典が終わり下校する時、美樹は後ろから肩をぽんと叩かれる。人からは普通背中を叩かれる美樹、肩を叩かれたことで、叩いた人が誰なのかの検討がついて憂鬱になった。
「ねえねえ、身長高いね」
 振り向いた目の前に、先ほどの少女。美樹はこくりとうなずく。
「あ、名前なんていうの? 私は明菜」
「・・・・・・美樹」
「美樹ちゃんかー、これからよろしくね!」
 にこっと笑う明菜。彼女をやや見上げていることに美樹は気が付いた。美樹は顔をしかめつつ、どうにか笑顔を作って小さく会釈をするしかできなかった。
「私、昔から身長高くて、小学校では巨大女って言われていて。それで・・・・・・同じくらいの人がいて、嬉しいなーって」
「巨大女って、私も言われたことある」
「ほんと? 言うやついるよねー、特に男子」
 それから2人はおしゃべりをしながら一緒に下校した。最初はぎくしゃくしていた2人、しかし並外れた長身同士にしかわからない悩みを打ち明け、2人はその日のうちに仲良くなった。長身自慢の美樹とは違って明菜は長身にコンプレックスを抱いていたが、それでも2人は仲良しだった。入学後の身体測定にて、明菜の身長は、美樹の200cmよりもさらに3cm高い203cmだったが、美樹はそんな明菜を疎ましく思いながらも、それでも2人の友情は健全だった。
 中学校に入学して1か月、2人は卓球部に入部する。美樹の目的は実であり、明菜はそんな美樹にくっついて卓球部に入ることにした。新入部員歓迎会にて、部長の実が部員の前で話す。3年前のように小さく身軽な少年ではなく、中肉中背で平均的な成人男性らしくなった実に、美樹は心をときめかせた。
「卓球は基本的に個人プレーなので、やりたい人はやって、そうじゃない人は好きに過ごす。そんな感じで緩く活動しています。自由に楽しく活動していければと思っています」
 ぺこりと会釈して、ぱらぱらと拍手が起こる。歓迎会解散後、美樹は真っ先に実の方へと向かった。
「部長、私のこと、覚えていますか?」
 密着するように、実の後ろに立った美樹。彼が振り向くと、目の前に胸がありさっと目を逸らす。それから、美樹の顔を見あげてぽんと手を叩いた。
「ああ、もしかして由紀の妹の」
「はい、美樹です!」
「なんか、すごく身長伸びたね」
 一瞬、目を輝かせる美樹。しゅんとした横目に明菜が映り、美樹はしゅんとした。明菜がいなければ自分が一番大人だったのにと美樹は思った。美樹にとって大人の女性とは、背の高い女性のことなのだから。
「中学校でも、よろしくお願いします」
 それだけて言って美樹は明菜の方へと走っていった。そして明菜よりももっと大きくなってから想いを伝えるのだと、美樹は心に誓った。
 中学生になった美樹はクラス活動、部活動、その他行事などを順調に、普通にこなしていく。中学になれば男子に成長期が来て抜かされると恐れていた美樹であったが、すくすくと誰よりも急速に成長していった。1か月程度で明菜を抜かし、夏休み前には210cmを突破、さらに夏休み中に10cm伸ばして、明けた頃に保健室で測ると222.8cmに達していた。あまりに急激に伸びたせいで夏休みの間に水着が入らなくなったり、制服と体操服を買い替えたりしたが、明菜をあごの下に入れられるほどの長身に成長で着て、美樹は再度自信を取り戻した――
「それで、そろそろ告白するの?」
 明菜に聞かれて、弁当を食べる手を止めて考える。明菜より背が伸びたら告白したいと、美樹は最初から明菜に言っていた。しかし勇気が出ず先延ばしにしていき、その間にも背は伸び続けて2人の身長差はとうとう頭1つ分にまで大きくなっていた。
「それはしたいけど、実さんもう受験だし」
 明菜に聞かれるたびに、美樹はなにかしらの言い訳を言う。そんな美樹を見て、明菜はじれったく思いながらも時々意地悪な心を出す。
「そんなにぐずぐずしていたら、先輩彼女作っちゃうかもよ。あるじゃん、受験の最中に勉強を教えていたらやがて愛に発展した、みたいな」
 明菜自身はそんな話を聞いたことはない。彼女の作り話である。しかし美樹はそんな明菜の作り話にはっとする。
「そうだよね、ちゃんと早めに気持ちは伝えないと・・・・・・」
 大きな体を小さく縮こまらせる美樹。脚をもぞもぞとさせると、机ががたがたと揺れた。美樹の細い脚も、その絶対値はそれなりの大きさであり、今のところは机の下にぎりぎり収まっているが、もう少し背が伸びたら机を浮かせてしまうことは明白であった。
 悩みに悩んで、とうとう下校時間。部活をさぼった2人はゆっくりと道を並んで歩いていた。205cmの明菜と222cmの美樹が並ぶと、傍から見れば普通の女子中学生2人組に見える。
「あ、実先輩」
「え!」
 裏の玄関から出てくる2人組。実と由紀。小学校の時のように仲良くおしゃべりをしながら、美樹に背を向けて歩いていた。明菜は美樹をじっと見あげる。目が合って明菜は、うん、と頷く。美樹は男子2人組に向かって小走りした。
「実さん!」
 実と一緒に由紀も振り返る。美樹の大きな体が目の前に迫り、たじろぐ2人。170cm、中3にしてはやや長身の2人も、美樹の前では辛うじて胸に届く程度の背丈しかない。
「あの、えーと・・・・・・」
 目をあちらこちらに向けながら、美樹は実の前でも赤面しながらじもじとする。状況を察して、実も一緒に顔を赤くした。
「あの、受験頑張ってください!」
 それだけ言って、美樹は明菜の元へと戻っていった。少年2人はそんな少女の背中をしばらく見ていた。

 3月、受験生は結果に一喜一憂しながらもその結果を受け入れ、それまでの環境への別れに思いを馳せる。と同時に、残される者は彼・彼女と過ごせる残り時間に何ができるのかを考える。
「練習ってなあ・・・・・・」
「お兄ちゃんお願い。だってぶっつけ本番だと、変なこと言っちゃいそうで怖いし」
 兄を見下ろしながら手を合わせる美樹。実の受験が終わり、兄を経由して実と会う約束をしたはいいものの、美樹は心の準備がいつになってもできていなかった。
「・・・・・・はあ、1回だけだからな」
「お兄ちゃん、ありがとう!」
 顔を輝かせる美樹、そんな美樹を見て由紀は若干照れ臭くなる。
「じゃあ、まずは向かい合って・・・・・・これくらいでいいかな?」
「ちょっと近すぎないか?」
 距離にして15cm程度の2人の間。真上を見上げないと、由紀から美樹の顔が見えない。
「そうか、じゃあ、これくらい?」
「まあ、そんな感じ」
 美樹の頭から爪先までを2、3度、由紀は見渡す。デートまであと1時間というのに、すでに美樹はデートのために注文した上質な服を身につけ、髪型のセットなども終えていた。綺麗に着飾った美樹に、由紀は思わず見惚れてしまう。最後に、美樹の胸をちらっと見た。若干見上げる位置にそのふくらみはあった。
「うん、いい感じ」
「本当? よかったー。それで、次は・・・・・・」
 ぽっと顔を赤くする美樹。言葉を発しようと口をパクパクさせるが、空気は出ても音は出てこない。
「もっと気を抜けよ」
「そういっても・・・・・・あ、もう行かないと」
 40分前、美樹はポシェットを手に家を出ていく。兄は妹の背中を見ながら、少し寂しい気持ちになった。
 待ち合わせ40分前、すでに実は公園で美樹が来るのを待っていた。妹が話をしたいらしいと由紀に言われてやってきた実、これは告白であろうと、胸を躍らせていた。
「すみません」
 後ろから、聞き覚えのある声がして実は振り返る。彼よりも頭1つ背の高い少女がそこに立って実を見下ろしていた。
「あなたは、美樹の友達の」
「山口です。今日は、美樹と会うんですよね?」
「はい。それで、山口さんは?」
「私はただ、美樹が心配になって来ちゃっただけで・・・・・・先輩、美樹はすごく恥ずかしがり屋なので、優しくしてあげてくださいね」
「うん、そのつもりです。せっかく勇気を出してくれたんだから、僕も出さないと」
 トットッと、軽い足音が迫ってきて、実はそちらに首を向ける。美樹が怖い顔をして、明菜を目指して走ってきた。
「あ、やばい」
「明菜ちゃん! と、先輩。今日はお時間を取っていただきありがとうございます」
「いやいや、暇だから大丈夫だよ」
「ありがとうございます。それで・・・・・・明菜ちゃんは、どうしてここに?」
 実よりも頭1つ高かった明菜、そんな明菜よりもさらに頭1つ高い位置から、明菜の至近距離から明菜を見下ろす美樹。明菜はそんな美樹を見上げてヘラヘラしていた。
「いやー、美樹のせっかくの晴れ舞台だから、つい」
「つい、ってねー」
「まあまあ、山口さんも悪気があったわけじゃないんだしさ」
 実が擁護して、美樹は複雑な気持ちになる。初っ端から自分のはしたなさを見せつけてしまったことへの恥じらい。実に擁護される明菜への嫉妬。
「それで、話ってなに?」
 実が尋ねると、美樹は赤かった顔をさらに赤くした。兄で練習した時とは比べ物にならない、今にも倒れそうな程の赤面。腰を90度近く曲げて顔を顔は実の方を向き、汗を流して口をパクパクさせ、目を泳がせる。そんな美樹を見て、実と明菜は胸の高鳴りと不安へと変えていった。
 自分がなんとかしなくては、実はそう思ってそのまま美樹の額にキスをしてみる。実の頬が紅潮する、傍観者の明菜が頬をピンクに染める。
「へ?」
 間抜けな返事をしてから、頬を指で撫でる美樹。たった今起きたことを理解し、意識を失った。
「うわ!」
「美樹ちゃん! 先輩!」
 前向きに倒れ、布団のように実に覆いかぶさる美樹。そんな美樹を明菜が剥ぎ取り、実の横に仰向けに寝かせた。
「先輩、大丈夫ですか?」
「僕は。それより美樹は?」
 赤面しながら実は直ちに起き上がって美樹の顔を覗き込む。失神しながらも、幸せそうな笑顔で目を瞑る美樹がそこにいた。
-FIN