朝起きたら
朝起きたら、僕は女の子になっていた。
驚きすぎると声は出せず、ただ頭を混乱だけが支配するらしい。朝起きて、いつもどおり股間を触ろうとしたら、そこにはあるはずのものがない。代わりにあったのは弾力性に富んだ穴。夢だと思って二度寝して、また起きてみたけれど事実は変わることなく、冷静に受け入れざるを得ない状況だけが僕の目の前にあった。
何が原因でこうなってしまったのかと記憶を辿ってみるが、昨日はフェチ仲間と家で語り合いながら酒を飲んだだけだ。酒もそんなに飲んでいないし、変なことをされた記憶もない。原因が見当たらないにもかかわらず、今の僕は女の子になっていた。
ベッドの上で静かに寝返りを打ちながら悩んでいると、あることに気がついた。ベッドがいつもよりも小さいのだ。僕は元々身長が160cmしかない。160cm、女性の平均身長ほどであり、男性としては近所の小学生に舐められるくらい小さい。それよりも大きくなっている、ということは今の僕はいわゆる高身長女子になっているということだ。
それに気がつくと、突然胸が動悸を始めた。僕は昔から背の高い女性が好きで、昨日語り合ったフェチ仲間というのも長身フェチの持ち主だ。そんな僕が、まさかこんなことになるなんてと、色々な感情が湧き上がってきては胸の動悸をさらに激しくしていく。
僕はとりあえず立ち上がった。目線が普段の僕よりもさらに高くなっていく。家が小さく感じる。僕の家は小さく、トイレのドアなんて180cmないくらいだ。普段の僕なら普通に通れるが、今は頭を軽くぶつけてしまう。
僕は収納からレーザー距離計を取り出して自分の身長を測った。181.2cm、僕の中では小柄な長身女性だが、現実には中々いないくらいの背の高さ。キッチンの換気扇に頭をぶつけるというのは本当だったらしい。それを身をもって実感し、興奮してから僕は友人に連絡した。
友人が到着する、思ったよりも早くて驚いた。
「おお、本当に女になってる。服、買ってきたぞ!」
女になった僕をみるなり、そこまで驚きもせずに買ってきたものを渡してくれた。180cmの大きな服、しかも女性もの。長身の女性は服に困るという噂はガセだったのだろうか。とりあえず、服を着てみる。下着、スカート、シャツ。予想以上にぴったりで、驚いた。
「おお、似合ってるじゃん! かわいい」
かわいい、という単語に一瞬胸がドキッとした。男だったときは幾度となく嫌がったこの単語に、こんなに胸をときめかせる日が来るなんて。しかし、まんざらでもない表情の僕を見下ろす友人の表情に僕はイラつく。そして立ち上がった。
「おお、確かに大きいな」
そう言いながら友人は僕の頭に手を置いた。友人の身長は190cmで、僕よりも10cm高い。複雑な気持ちだ、こいつを抜かしたい気持ちと、自分よりも高い男に出会えた得体の知れない喜びが一緒になっていた。
それから僕らは一緒に外に出た。せっかくだから、この身長で街に出て歩いてみようというわけだ。180cmというのは予想よりもずっと大きく感じる。男でもあまりいない、女性では皆無。そんな平均身長165cmの中に混じって、周りを見下ろしながら僕らは悠々と歩いて自分の長身を見せつけてやった。
朝がやってきた。しばらくぼーっとしてから、昨日のことを思い出して胸がドキドキしてくる。明らかに昨日よりも小さなベッド、ふくらはぎが飛び出てしまっている。どれくらい大きくなったんだろうと思いながら、僕は私はそっと立ち上がる・・・圧巻だ。うちは天井が低めで、高いところは260cmあるけれど低いところは208cmしかない。そして、私の目線はその低い天井に限りなく近い。
また背が伸びたらしい。僕は嬉しくなって、昨日と同じように身長を測ってみる。210cm、ギネスとまではいかないけど、メディアに取り上げられるレベルの長身女性。こんな女性に会いたいと思いながら日々を過ごしていたけど、まさかこんな形で実現するなんて夢みたい!
友人が来る前にシャワーに浴びようと、私は小さくなったシャツをきつい思いをしながら脱いで、浴室に入る。ゴンと天井に頭がぶつかる、そういえばこの家の浴室は高さが192cmしかないんだった。私は浴室より20cmも背が高い。風呂の中に入って、縁に腰掛けて軽く座った状態で私は体を洗う。いつもよりもたくさんの石鹸を使う。石鹸、あまり好きじゃない。今度からボディソープを買ってこよう。
シャワーから出てバスタオルで体を拭いているとドアベルがなった。友人が来てくれた、私は裸のまま頭を下げて玄関に向かって、さらに頭を下げてドアから外に顔を出す。小さな友人がそこにいた。彼の上目遣い、とってもレアなものが見えた。
「あー、もって来たよ。200cmのブレザー、少し小さいかも知れないけど」
「ありがとう!」
受け取ってすぐ、私は服に着替える。大きい下着も用意されている、さすが友人。ブレザーを着て、手鏡で自分を見てみると、女子高生になったみたいで少し恥ずかしい。
「ところで、どうしてこんなに大きいブレザーなんて、持ってたの?」
「まあ、資料として作った」
友人の照れ笑い。昔の僕だったらこいつの変態さに呆れたんだろうけど今は感謝しかない。200cmの服なんて、通販でも海外とかでないと手に入らないんじゃないだろうか。
さて、服も着て、今度は何をしようか。友人を見下ろしながら考えていたら、胸がうずうずしているのに気がついた。お外に行きたい、みんなに私の身長を見せつけたい。210cmの私から見える世界はどんなものなんだろう、楽しみで仕方がなくなってきた。
靴を履いて友人と一緒に外に行く。まず、玄関で背中をまげて、さらに大きく曲げてドアをくぐった。そしてまた背中を曲げてエレベーターに乗り込んで、外に出て私はやっと背中を思い切り伸ばすことができる。
「んー、気持ちいい」
思い切り伸びをしてから、脱力して周りを見る。210cm、すごく高い。駐輪場よりも若干背が高そうだし、自転車がびっくりするほど小さい。自分が乗ったら三輪車みたいになるんじゃないかと思えた。
それからは、周りを軽く散歩した。私を見るなり誰もが怪訝な表情で私を見てきた。こんなに大きな女の子を見るのは初めてだと思う。私も見たことないし。190cmの友人ですら友人以外に見たことがないのに、そんな友人よりも頭1つ近く背の高い私。そんなに大きな自分、周りの光景全てに興奮してしまった。明日はどうなるんだろう、もっと高くなったらどんな風になるんだろうと思いながら、私は家に帰った。
ベッドが小さすぎて寝ることができないから、床で寝たのを覚えている。そのせいで体が痛い。寝返りを打つと、足がどこかにぶつかった目を閉じたまま、足でその先にあるものを探っていたらそこがキッチンであることに気がついて驚いた。
私は今日、何センチになったんだろう。ワクワクしながらゆっくり立ち上がるとぐんぐんと目線が上がっていき、天井に頭をぶつけるかというところで、10cmくらい低いところで上昇が止まった。身長を測ると、250cm、あんなに高かった蛍光灯が目の前にあるし、私の目線からエアコンの上が見える。そして、天井の低いところにあるキッチンも玄関も私からは見えない。私よりも50cm近く低い天井、ここまでくると大変だ。そもそも服が小さすぎて胸が痛い。また、玄関に行くために、腰を曲げるだけでは足りずハイハイをしないと行けない。大きすぎるのも考えものらしい
ピンポーンとドアベルが鳴る。こんな朝早くに誰がと思いながら、ハイハイでドアまで向かい魚眼レンズを覗くと友人が袋を持って立っていた。鍵を開けて友人を迎える。
「よ、250cmのセーラー服持ってきたぜ!」
「おー! ありがとう」
お礼を言ったはいいものの、妙な感じが私を襲う。彼はどうして私の身長を知っているのか、250cmのセーラー服なんて持っていたのか。そういえば成長が始まる前日に彼と会った。色々考えていたら1つの予想にたどり着く。
「・・・ねえ、もしかしてあんたが原因?」
靴や洋服一式を大きな袋から取り出す彼の動きがピタリと止まった。私は彼をじっと見つめる。汗が流れてくる。図星か?
話を聞くと、体の大きさを変えるリモコンがあるらしく、それで私の大きさを変えていたとか。色々聞きたいことはあったけれど、今日1日だけの効力と聞いて私は一気にリモコンに興味を失った。このままずっとこの大きさだったら困るけれど、今日1日くらいだったら全然大丈夫。むしろ、楽しい!
私はまず、昨日の小さな200cmのワイシャツを脱ぐ。そして250cmのいセーラー服に着替えた。かわいい服を着ると髪型もかわいくしたい。ネットで髪型について調べながら、ポニーテールにしてみた。
「どうかな?」
友人に尋ねてみる。正座をした私は、友人の胸くらいしかない。友人は私を見下ろしながらこくりと頷いたので、36cmの靴を履いて外に出ることにした。36cmの靴、友人の大きな30cmの靴よりもさらに大きくて訳がわからなくなる。
外に出て背筋を伸ばすと、家の中ではよくわからなかった新たな発見があった。数日前はあんなに大きかった友人、私の胸までしかない。それはつまり、私は周りから上半身が抜き出ているということ。昨日の私は駐輪場の屋根くらいの高さだったけれど、そんな昨日の私は今の私の肩よりも小さい。
今日はせっかくだから、人の多いところに行ってみようとスーパーに向かった。休日で人で賑わうスーパー。こんなに混んでいても、私の周りはスカスカ。私は悠々とカゴを手にして店内を歩く。天井は高いからその心配はいらないし、棚は上から見渡せるから意外と便利。冷蔵庫はしゃがまないと見えないけど、そこは友人に任せる。
「まあおっきい!」
腰から声が聞こえた。小柄なおばさんが私のことを目を丸くして見上げている。私は腰を直角くらいに曲げて、それでも若干おばさんのことを見下ろした。
「身長、いくつあるの?」
「えーと、250cmくらいあります!」
元気に答える。だって、本当に楽しいから。
「まあ、どうしたらそんなに大きくなれるの?」
「うーん、やっぱりいっぱい食べて寝ることですね」
「あらそう。でもまあ、本当に大きくて・・・」
おばさんがしみじみと私の体を見回す。そんなおばさんを腰を曲げた状態で見ていたら、脚に誰かが抱きついた。
「うわー、お姉さんおっきーよー」
小学生くらいの男の子が、私の脚を撫でている。125cmくらいの私の脚は小学3年生の平均身長くらい。子供なら、私の脚の間を通れてしまう。気がつけば私の脚ほどしかない子供たちが、私の周りに集まってきていた。
「おい、そろそろ」
「あー、ごめんねみんな、またねー」
脚を動かすと子供たちはさーっと離れていき、その間に私は足元に気をつけながらレジへと向かう。レジを通し、大量の食料を手に持ちながら子供たちに手を振り私たちはスーパーを後にした。
人混みから抜けて、再び2人だけの世界になる。以前は子供なんて大嫌いだったけど、今はそうでもない。私の巨体を目の当たりにして怪訝な表情を浮かべることなく、純粋に楽しんでくれる子供が私は好きになってしまった。
「今日で終わりかあ」
ボソリと呟いてしまう。友人を見下ろすと、私のことをじっと見上げていた。
「もっと、延長する?」
友人の提案に、一瞬心が揺らいだけれど、私は首を横にふった。
「いや、いいよ。今日1日限りだから、楽しいだけだと思うし」
「・・・そうか」
私はスーパーの方を振り返る。もう何も見えないけれど、巨大女子中学生が今日来たという噂はこれからも延々と語り継がれていくのだと思う。そう思うと、なんとなく私は気分が良くなった。
-FIN