朝起きたら2

 1日限りの効力であると聞かされて、残念だと思った自分がいたのは確かだった。その予定が裏切られたときの私の複雑な心境は、今でもうまく説明できないけれど、1番最初に思ったのはこれからどうしていこうかという不安だった。
 私の家は小さい、高い所でも天井が260cmしかないし、浴室なんて190cmちょっとしかない。普通の家だと思うけど、250cmの私から見たら小さなおもちゃの家みたいだ。いつ戻れるかと友人に訪ねてみても、当然彼もわからない。私はまず、友人の家で暮らすことにした。友人の家の天井は300cmあって広々としているからだ。そのあとは、セーラー服以外の普段着を何着か特注した。住まいも衣服もできて、私の生活はある程度は満たされた。ただ一つ、食を除いては・・・・・・
 
 250cmという高身長に加えて、今の私の身体は中学生、成長期真っ只中。日に日に私の食欲は増していく。最初は友人と同じくらいだったのに、2人前、3人前と増えていき、いつしか何人前なんて表現は使えなくなった。最近は1日に5㎏のパスタをぺろりと平らげてしまう。成長痛は1日中続いている。目線も日に日に高くなっている気がする。毎日1cmくらいずつにょきにょきと伸びていく。今日の身長は255cm、もう少しで人類最高身長を更新してしまう。
 ご飯を食べて、背が伸びて体重が増えて、関節を刺激してさらに背が伸びて・・・・・・というスパイラルを本当に描いているのかは知らないけど、私の食欲が上がっていくのも、身長が伸びているのも事実だ。怖くてあまり頻繁には測っていないけど、夜寝る時は関節がミシミシいっているのがわかるし、朝は成長痛でしばらく動けない。そして成長痛が収まったら、私は空っぽになった胃袋にご飯を1㎏以上容易に詰め込むのだ。

 友人のお遊びで大食いをしてみることにした。1日に5㎏のご飯というのはかなり多い方だと思うけど、別にお腹いっぱい食べているわけじゃない。本気を出したらどれくらい食べれるんだろう?
 お米を30㎏買って、ご飯のお友を駆使してただ食べ続ける。背が伸びてから満腹というものを経験していなかったので、思い切り食べられて最初は幸せだった。でも15㎏を超えたところで限界を感じて、20㎏でダウンした。食べすぎたせいで体中が痛くなって、お腹いっぱいで私は眠った。
 翌朝、過去最高の成長痛に襲われながら起床した。身長を測ったら268cm、ちなみに昨日は263cmだった。1日で5cmも伸びるのは初めてだった。朝は抜いたけれどお昼になると極度の空腹に襲われた。以前の1日分だった5㎏でも足りず、10㎏を平らげた。その数日後には以前に死ぬ思いで食べた20㎏すらも普通に食べるようになった。空腹のあまり、友人の帰りを待てずにスーパーで10㎏の米を10袋ほど買って両腕に担いで帰ることも多くなった。

 食料調達のために外に出るようになってから、人との触れ合いも増えた。スーパーで高いところのものを取って上げるのは茶飯事。まあ、高いところと言っても200cmくらいで、私にとっては肩くらいの高さしかないんだけど。他にも、木に引っかかったボールを取ってあげたり、塀の上に乗った猫を助けたりすることもあった。さすがの私でも木に届かない時は度々あるけど、子供を両手でつかんで高く持ち上げて、その子に取ってもらえばあと1mくらいは高いところまでは到達できる。そんな風にして、私は子供たちと一緒に仲良く遊び、引きこもり生活にも楽しさを見出し始めていた。
 成長は止まらず、270cmに達したかと思えば数日後には280cmになった。家が、スーパーが、周りの人たちがどんどん小さくなっていく。脚が長めらしく、小柄な女性だったら跨げてしまうかもしれない。小柄じゃなくても男性でも、あと1週間もすればまたげると思う。朝起きるたびに5cm近く成長してしまうし、さらに加速している。最初は不安だったけれど、もう慣れてしまったみたい。どこまで大きくなるんだろうって楽しんでいる自分がいる。
 ある日、宅配便が届いて背中を曲げながら家を歩いて、四つん這いになって玄関を開けて、物を受け取った。外国からの贈り物、中を開けると例のリモコンが入っていた。私はしばらく考えてから、そのリモコンを引き出しの中に閉まった。ちょうど友人が帰ってきたので、私たちは夕食を取る。友人の30倍以上の食欲は、今後しばらく衰えることはないと思う。友人には迷惑をかけてしまうけれど、そもそもの原因は彼にあるわけだし、しばらくはこんなお遊びを続けてもよいと思いながら私は毎度のごとくバクバクと夕食を平らげた。
-FIN